農業未経験の企業が農業参入して露地栽培で成功することができるのか
企業の農業参入数は、15年間右肩上がりに伸びています。投資金額が低いとはいえ、農業未経験の企業が露地栽培に参入して本当にうまくいくのでしょうか。
<目次>
1.2兆円を超える巨大マーケットのプレイヤーが入れ替わる
2.農業従事者全体の60%が農業所得100万円以下
3.営農形態別に農業所得を知る
4.「露地」もしくは「施設」の「野菜作」が有力候補?!
5.北海道以外で露地栽培に参入して本当に収益化できるのか?
6.プロでも難しい露地栽培に参入して栽培を安定させられるのか
平成30年の日本国内において、農業算出額は9兆1,283億円です。そのうち野菜は2兆3,212億円であり、全体の25%を占めています。全国で店舗展開しているドラックストアで7.8兆円、理美容室で2.1兆円です。野菜で2.3兆円というのは市場としては大きな市場といえます。
さて、9兆円もの市場がある農業界、2.3兆円ある野菜のマーケットですが、現在他の業界ではあり得ないことが起きています。
昨今のニュースなどで「農業従事者の高齢化」をほとんどの方が耳にしたことがあると思います。2020年の農業従事者の平均年齢は67.8歳です。また、農水省の最新の発表では2015年から2020年の5年間で、主な仕事が農業の「基幹的農業従事者」が、約40万人減少しているのです。地方の県庁所在地と同等もしくはそれ以上の農業者が引退しているのです。 そして、65歳以上の割合はほぼ7割に達します。
日本人の人口は減少を続けています。あらゆる業種業態において、今のまま続けていては、人口減少とともに、競争も激化し、衰退していくのは目に見えています。
しかし、農業は違います。「食料」、特に「野菜」は、人口減少とともに市場が縮小する可能性もありますが、昨今の健康志向など顧みると品目によってはゆるやかに拡大する可能性もあります。 一方でいま現在、活躍している現役プレイヤーが、高齢化とともに引退せざるを得なくなるのです。 現在の日本において、9兆円もの市場があり、今現在活躍しているプレイヤーがこれから5年、10年でどんどん引退を余儀なくされている「マーケット」が他に存在するでしょうか。
企業が農業参入する上で、栽培技術や農業経営を安易に見て失敗している事例をよく耳にします。企業が既存の農業者の真似をしてもうまくいくわけがありません。 そもそも現在の農業従事者の平均農業所得がいくらかご存じでしょうか。 全体の6割超が1年間の農業所得が100万円以下なのです。さらには、ここには主たる農業者の人件費は含まれていなかったりもします。この金額で企業が農業参入して事業として続けることができるはずがありません。また、農業従事者が増えない理由もここにあるような気がします。「儲かる」「稼げる」が農業従事者を増やす、さらには永続する方法の1つともいえるでしょう。したがって、農業従事者の今までのやり方をそのまま真似しても、うまくいくはずがないというのは明らかだといえます。
<営農形態別農業所得>
・農業平均:197万円
・水田作:72万円
・畑作:316万円
・露地野菜作:271万円
・施設野菜作:543万円
・果樹作:259万円
・露地花き作:263万円
・施設花き作:429万円
全農業経営体の年間の平均農業所得は197万円です。これは水稲から畜産まですべてを入れた平均所得です。 「水田作」と「畑作」の農業所得には、「うち補助金等受取金」が含まれています。水田作には56万円、畑作には208万円であり、農業所得から補助金を除くと、水田作16万円、畑作108万円となります。つまり、補助金ありきで成り立つモデルということになります。
また「果樹作」は、補助金の金額も小さく農業所得259万円と比較的農業所得は多いと言えます。「桃栗三年柿八年」ではないですが、果樹作は新規で始める場合、定植から収穫開始まで時間がかかる場合がほとんどです。果樹園をそのまま引き継げる場合は別ですが、今から始めるには時間がかかり過ぎると言えます。 それでは、「花き」はどうでしょうか。露地花き作263万円、施設花き作429万円と比較的農業所得が多いといえます。ちなみに弊社代表である白川は、前職船井総研時代に園芸・花き業界のコンサルティングを行っていました。企業が「花き」で新規参入して成功するには、難しいでしょう。 理由は、大きく3つあります。
1つ目は「販路開拓」です。すでに既存の農業者さんが、ホームセンターと直接取引が進んでいる業界と言えます。
2つ目は、「品質=姿・形」の基準が厳しい業界です。適正な価格で取引されるためには、技術力が鍵です。未経験から花き業界で栽培を始めて、適正な値がつくまで果たして何年かかるでしょうか。
3つ目は、「嗜好品」である点です。野菜は必需品ですが、花きは嗜好品です。景気などに左右されやすく、極論を言えば「なくても生きていける」ものです。 以上の理由から、農業未経験の企業が新規参入するには、ハードルが高いと言わざるを得ません。
露地野菜作271万円、施設野菜作543万と、農業所得が比較的高い分野です。 ・「補助金ありき」ではない ・「定植から収穫までが早い」ため ・「なくてはならない」といった必需性が高い といった理由から野菜作が、企業が参入する候補であるといえるでしょう。
それでは、「露地野菜作」および「施設野菜作」を詳しく見ていきましょう。
「露地野菜作」の平均は、規模142a(1.4ha)で農業所得271万円です。そのうち5.0ha以上の平均では、規模1,703a(17.0ha)で農業所得1,849万円となります。 一方で「施設野菜作」の平均は、規模54a(0.54ha)で農業所得543万円です。そのうち1.0ha以上2.0ha未満の平均は、規模148a(1.48ha)で農業所得1,196万円、2.0ha以上の平均は規模455a(4.55ha)で農業所得1,940万円となります。
施設野菜作は露地野菜作の3分の1の面積で2倍以上の農業所得があるため、単位面積当たりの生産性が高いことがわかります。 また、露地野菜作も5.0ha以上であれば、企業が新規事業の1つとして参入する魅力があるといえます。
露地野菜作と施設野菜作が、農業未経験の企業が農業参入して成功する可能性が高いということを先述しました。それでは、以下のグラフを見てみましょう。
上記の2つのグラフは、北海道と都府県の経営耕地面積別の農業経営体の割合をまとめたものです。 北海道において、5ha未満は平成27年において全体の25%となっています。平成17年から比べると5ha未満の農業経営体数の割合は小さくなっています。つまり、5ha以上の割合が大きくなっている=大規模化をどんどん進めているということがわかります。 それでは、都府県はどうでしょうか。 平成27年は全体の94.4%が5ha未満です。平成17年の97.2%から比べると大規模化が進んでいるとはいえますが、農業経営体の9割超が5ha未満ということになります。
先述した露地野菜作では、5.0ha以上の農業経営体の平均は、規模1,703a(17.0ha)で農業所得1,849万円と説明しました。北海道においては5.0ha以上が全体の75%以上なので可能性はあるといえます。しかし、都府県では全体の9割超が5ha未満であるから、5.0ha以上の農地を取得することは困難と言わざるを得ません。
企業が農業参入する上で、はじめの難関が「農地の取得」です。 土壌や日照条件など条件のよい農地、つまり現在も利用しやすい農地を借りることができるでしょうか?常識で考えれば、現在農業をされている方が、自分たちで利用すると考えられます。そうなると、参入時に借りられる農地は、「条件がよくない農地」である可能性が高いといえます。 また、飛び地であれば5.0ha以上の農地を取得できる可能性もあるかもしれません。しかし作業効率が悪く、昨今でいう無人の大型トラクターやドローンによる薬剤散布などを利用できる農地を取得できる可能性は限りなくゼロに近いと言わざるを得ません。 未経験の企業が、条件がよいかどうかわからない農地で、かつ大規模化も難しいと露地野菜作を、北海道以外のエリアで参入し、成功させることができるでしょうか。
農地の問題がクリアしたとしても、農業未経験の企業が農業参入して「露地」でうまく栽培ができるでしょうか。
たしかに、施設栽培に比べると投資金額が低いため参入しやすいでしょう。さらには、広大な敷地を取得できるのであれば、投資金額が小さい分、拡大しやすいともいえます。
しかし、栽培がうまくできるかは別問題です。プロと呼ばれる生産者でも難しいのが露地栽培です。その最大の理由は、天候によって大きく収穫量が左右されるからです。また、屋外なので病虫害のリスクや土壌の影響も受けやすくなってしまいます。 天候や災害のリスクをモロに最も受けてしまうとなると、安定して出荷できません。企業として事業化するのであれば、適正な利益を確保しなければ、事業を存続させることはできません。
露地栽培で参入を検討される場合は、
・飛び地ではなく、広大な敷地(将来は5.0ha以上)に広げられる農地を取得できる
・確信が持てる栽培技術があるもしくは指導を受けられる
・取得した農地の土壌環境がよい
・天候によって収穫量が左右されるリスクを負う
といった点を最低限、クリアにしましょう。
もしくは、事業として収益を上げることが目的ではなく、従業員の再雇用先とか企業イメージのアップといったことが目的であれば収益化は必要ないのかもしれません。ただ、企業経営において収益化できない事業が、長く続く見込みは薄いでしょう。
<目次>
1.2兆円を超える巨大マーケットのプレイヤーが入れ替わる
2.農業従事者全体の60%が農業所得100万円以下
3.営農形態別に農業所得を知る
4.「露地」もしくは「施設」の「野菜作」が有力候補?!
5.北海道以外で露地栽培に参入して本当に収益化できるのか?
6.プロでも難しい露地栽培に参入して栽培を安定させられるのか
1.2兆円を超える巨大マーケットのプレイヤーが入れ替わる
平成30年の日本国内において、農業算出額は9兆1,283億円です。そのうち野菜は2兆3,212億円であり、全体の25%を占めています。全国で店舗展開しているドラックストアで7.8兆円、理美容室で2.1兆円です。野菜で2.3兆円というのは市場としては大きな市場といえます。
さて、9兆円もの市場がある農業界、2.3兆円ある野菜のマーケットですが、現在他の業界ではあり得ないことが起きています。
昨今のニュースなどで「農業従事者の高齢化」をほとんどの方が耳にしたことがあると思います。2020年の農業従事者の平均年齢は67.8歳です。また、農水省の最新の発表では2015年から2020年の5年間で、主な仕事が農業の「基幹的農業従事者」が、約40万人減少しているのです。地方の県庁所在地と同等もしくはそれ以上の農業者が引退しているのです。 そして、65歳以上の割合はほぼ7割に達します。
日本人の人口は減少を続けています。あらゆる業種業態において、今のまま続けていては、人口減少とともに、競争も激化し、衰退していくのは目に見えています。
しかし、農業は違います。「食料」、特に「野菜」は、人口減少とともに市場が縮小する可能性もありますが、昨今の健康志向など顧みると品目によってはゆるやかに拡大する可能性もあります。 一方でいま現在、活躍している現役プレイヤーが、高齢化とともに引退せざるを得なくなるのです。 現在の日本において、9兆円もの市場があり、今現在活躍しているプレイヤーがこれから5年、10年でどんどん引退を余儀なくされている「マーケット」が他に存在するでしょうか。
2.農業従事者全体の60%が農業所得100万円以下
企業が農業参入する上で、栽培技術や農業経営を安易に見て失敗している事例をよく耳にします。企業が既存の農業者の真似をしてもうまくいくわけがありません。 そもそも現在の農業従事者の平均農業所得がいくらかご存じでしょうか。 全体の6割超が1年間の農業所得が100万円以下なのです。さらには、ここには主たる農業者の人件費は含まれていなかったりもします。この金額で企業が農業参入して事業として続けることができるはずがありません。また、農業従事者が増えない理由もここにあるような気がします。「儲かる」「稼げる」が農業従事者を増やす、さらには永続する方法の1つともいえるでしょう。したがって、農業従事者の今までのやり方をそのまま真似しても、うまくいくはずがないというのは明らかだといえます。
3.営農形態別に農業所得を知る
<営農形態別農業所得>
・農業平均:197万円
・水田作:72万円
・畑作:316万円
・露地野菜作:271万円
・施設野菜作:543万円
・果樹作:259万円
・露地花き作:263万円
・施設花き作:429万円
全農業経営体の年間の平均農業所得は197万円です。これは水稲から畜産まですべてを入れた平均所得です。 「水田作」と「畑作」の農業所得には、「うち補助金等受取金」が含まれています。水田作には56万円、畑作には208万円であり、農業所得から補助金を除くと、水田作16万円、畑作108万円となります。つまり、補助金ありきで成り立つモデルということになります。
また「果樹作」は、補助金の金額も小さく農業所得259万円と比較的農業所得は多いと言えます。「桃栗三年柿八年」ではないですが、果樹作は新規で始める場合、定植から収穫開始まで時間がかかる場合がほとんどです。果樹園をそのまま引き継げる場合は別ですが、今から始めるには時間がかかり過ぎると言えます。 それでは、「花き」はどうでしょうか。露地花き作263万円、施設花き作429万円と比較的農業所得が多いといえます。ちなみに弊社代表である白川は、前職船井総研時代に園芸・花き業界のコンサルティングを行っていました。企業が「花き」で新規参入して成功するには、難しいでしょう。 理由は、大きく3つあります。
1つ目は「販路開拓」です。すでに既存の農業者さんが、ホームセンターと直接取引が進んでいる業界と言えます。
2つ目は、「品質=姿・形」の基準が厳しい業界です。適正な価格で取引されるためには、技術力が鍵です。未経験から花き業界で栽培を始めて、適正な値がつくまで果たして何年かかるでしょうか。
3つ目は、「嗜好品」である点です。野菜は必需品ですが、花きは嗜好品です。景気などに左右されやすく、極論を言えば「なくても生きていける」ものです。 以上の理由から、農業未経験の企業が新規参入するには、ハードルが高いと言わざるを得ません。
4.「露地」もしくは「施設」の「野菜作」が有力候補?!
露地野菜作271万円、施設野菜作543万と、農業所得が比較的高い分野です。 ・「補助金ありき」ではない ・「定植から収穫までが早い」ため ・「なくてはならない」といった必需性が高い といった理由から野菜作が、企業が参入する候補であるといえるでしょう。
それでは、「露地野菜作」および「施設野菜作」を詳しく見ていきましょう。
「露地野菜作」の平均は、規模142a(1.4ha)で農業所得271万円です。そのうち5.0ha以上の平均では、規模1,703a(17.0ha)で農業所得1,849万円となります。 一方で「施設野菜作」の平均は、規模54a(0.54ha)で農業所得543万円です。そのうち1.0ha以上2.0ha未満の平均は、規模148a(1.48ha)で農業所得1,196万円、2.0ha以上の平均は規模455a(4.55ha)で農業所得1,940万円となります。
施設野菜作は露地野菜作の3分の1の面積で2倍以上の農業所得があるため、単位面積当たりの生産性が高いことがわかります。 また、露地野菜作も5.0ha以上であれば、企業が新規事業の1つとして参入する魅力があるといえます。
5.北海道以外で露地栽培に参入して本当に収益化できるのか?
露地野菜作と施設野菜作が、農業未経験の企業が農業参入して成功する可能性が高いということを先述しました。それでは、以下のグラフを見てみましょう。
上記の2つのグラフは、北海道と都府県の経営耕地面積別の農業経営体の割合をまとめたものです。 北海道において、5ha未満は平成27年において全体の25%となっています。平成17年から比べると5ha未満の農業経営体数の割合は小さくなっています。つまり、5ha以上の割合が大きくなっている=大規模化をどんどん進めているということがわかります。 それでは、都府県はどうでしょうか。 平成27年は全体の94.4%が5ha未満です。平成17年の97.2%から比べると大規模化が進んでいるとはいえますが、農業経営体の9割超が5ha未満ということになります。
先述した露地野菜作では、5.0ha以上の農業経営体の平均は、規模1,703a(17.0ha)で農業所得1,849万円と説明しました。北海道においては5.0ha以上が全体の75%以上なので可能性はあるといえます。しかし、都府県では全体の9割超が5ha未満であるから、5.0ha以上の農地を取得することは困難と言わざるを得ません。
企業が農業参入する上で、はじめの難関が「農地の取得」です。 土壌や日照条件など条件のよい農地、つまり現在も利用しやすい農地を借りることができるでしょうか?常識で考えれば、現在農業をされている方が、自分たちで利用すると考えられます。そうなると、参入時に借りられる農地は、「条件がよくない農地」である可能性が高いといえます。 また、飛び地であれば5.0ha以上の農地を取得できる可能性もあるかもしれません。しかし作業効率が悪く、昨今でいう無人の大型トラクターやドローンによる薬剤散布などを利用できる農地を取得できる可能性は限りなくゼロに近いと言わざるを得ません。 未経験の企業が、条件がよいかどうかわからない農地で、かつ大規模化も難しいと露地野菜作を、北海道以外のエリアで参入し、成功させることができるでしょうか。
6.
プロでも難しい「露地栽培」に参入して栽培を安定させられるのか?
農地の問題がクリアしたとしても、農業未経験の企業が農業参入して「露地」でうまく栽培ができるでしょうか。
たしかに、施設栽培に比べると投資金額が低いため参入しやすいでしょう。さらには、広大な敷地を取得できるのであれば、投資金額が小さい分、拡大しやすいともいえます。
しかし、栽培がうまくできるかは別問題です。プロと呼ばれる生産者でも難しいのが露地栽培です。その最大の理由は、天候によって大きく収穫量が左右されるからです。また、屋外なので病虫害のリスクや土壌の影響も受けやすくなってしまいます。 天候や災害のリスクをモロに最も受けてしまうとなると、安定して出荷できません。企業として事業化するのであれば、適正な利益を確保しなければ、事業を存続させることはできません。
露地栽培で参入を検討される場合は、
・飛び地ではなく、広大な敷地(将来は5.0ha以上)に広げられる農地を取得できる
・確信が持てる栽培技術があるもしくは指導を受けられる
・取得した農地の土壌環境がよい
・天候によって収穫量が左右されるリスクを負う
といった点を最低限、クリアにしましょう。
もしくは、事業として収益を上げることが目的ではなく、従業員の再雇用先とか企業イメージのアップといったことが目的であれば収益化は必要ないのかもしれません。ただ、企業経営において収益化できない事業が、長く続く見込みは薄いでしょう。